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「打つまでは、まだ失敗していない」――トム・モリス・シニア|ゴルフは名言でうまくなる|岡上貞夫 - gentosha.jp

打つ前にミスすることを考えると、そのとおりの結果になる

トム・モリス・シニア(1821-1908)は、セント・アンドリューズのグリーン・キーパー兼プロで、初期のゴルフ界最高の名手だ。全英オープンでは4度優勝している。

全英オープンには1896年まで出場した記録が残っているので、75歳までトーナメント・プロだったことになる。

前回紹介したサンディ・ハードもそうだが、この時代の人が古稀を過ぎても現役ゴルファーであったことを考えると、寿命が延びた現代なら70歳程度はまだまだ老け込む年齢ではないと思えて、励みになる。

シニアは世界初のプロゴルファーであるアラン・ロバートソンに弟子入りし、師匠をもしのぐ腕前となった。同時にボールの製造、グリーン・キーパー、コース設計・改造と、ゴルフに関することならなんでもやる多才であった。

ある日散歩をしていたシニアは、セント・アンドリューズ市の水道管が転がっているのに目を留めた。10.8cmの直径がなんともよさそうに思えたのだ。

さっそく、水道管を適当な長さに切ってカップに埋めてみたところ、実に具合がいい。これが、それまでコースによってまちまちだったホール・カップの大きさが10.8cmに統一されるきっかけとなった。その後、鉄製の二重底にする工夫を加え、カップ・インの際にいい音が鳴るようにまでしたのだから、たいしたアイデアマンである。

「ゴルフでは、得意の絶頂から奈落の底に転落するなど、珍しくもない。まさに人生そのものだね」という名言も残している。皮肉にもその言葉どおり、直前まで元気に仕事をしていたシニアは、階段から足を滑らせて頭を打ち、それがもとで1908年5月に亡くなった。

表題の名言は、トム・モリス・シニアのものでは“Never up, never in”に次いで有名だ。まだ打ってもいないのに、多くのゴルファーがミスしたときのことを先回りして考えてしまい、結果そのとおりにミスをしていることをうまく表現している。

関西のドン、故・杉原輝雄プロも、「曲がったら曲がったときに考えろ。まずは攻めることだ」と若手プロに教えたそうだ。

打つ前から曲がったときのことを考えているようでは、プロとして心構えがなっとらんというわけだ。

否定形ではなく肯定形でイメージする

たしかに、打つ前にミスすることを想定すると、そのとおりのミスをやらかしてしまうということはよくある。

「打つ前にミスを考えると、設計図どおりのミスになる」(ミッキー・ライト)

ミッキー・ライトもこのような言葉を残しているが、なぜそう(予想どおりのミスに)なってしまうのだろうか? これは、どうも人間の脳の特性に関係しているらしい。

人間の脳は、シャレではないが「NO」を理解できないようになっているというのだ。つまり、否定という概念を持っていないようなのだ。

たとえば、「ゴルフコースのグリーン色をイメージしないでください」と言われたとする。みなさんは緑色を思い浮かべずに済んだだろうか? かえってイメージしてしまったのではないだろうか。

「○○しないで」「○○してはいけない」「○○はNO!」と否定しても、脳はそれを理解できず、イメージとして持ってしまうようだ。

ゴルフコースでの実戦では、「右はOBだから打ってはダメ」「目の前が池だから、トップボールは打たないように」と否定形の考えを持ったままアドレスすると、右のOBや前の池のイメージだけが残ってしまう。そのまま打てば、ボールはOBや池へ……ということになるわけだ。

では、どうすればよいか。右サイドがOBで左サイドは安全なら、「狙い目はフェアウェイの左サイドのあたり」とターゲットをはっきりさせ、「もっと左へ行ってしまってもいい」と肯定形で考えることだ。

そうすれば、イメージしたとおりにフェアウェイの左サイドか、悪くともそのさらに左のラフでおさまるだろう。

また、最悪のケースを予想して、実際にその事態になったとしても、ほとんどの人は「やっぱり予想どおりだった」というふうにショックを和らげようと心理的に備える傾向がある。

ゴルフでは「この芝が薄いライではダフッてしまいそうだ」「ミスヒットでバンカーに入りそう」「スリー・パットしそうなラインだなぁ」という類の予想だ。

実際にダフったり、バンカーへ入れたり、スリー・パットしても、「ほら、思ったとおりだ」と大ショックを受けないようにしているのだが、これも予想どおりになりやすいのは脳の特性による。

脳は安心感を求めるのだそうで、「予測どおりの結果」という安心を求めて、無意識にそれを叶えてくれてしまうのだ。

脳が求める「安心感」に抗え!

たとえば前半が絶好調のとき、「どうせ平均の法則が働いて、後半は乱れるのだろう」と予測してしまうことがあるだろう。人間は不思議な生き物で、慣れない絶好調は普通ではないので不安(脳が不快)になるのだ。

そして、その不安が「後半は乱れるだろう」という予測を生み出し、実際にそのとおりになって安心してしまうのだ。これでは、いつまでたっても100の壁や90の壁は乗り越えられない。

では、上級者はどうやってその壁を乗り越え、ひとつ上のレベルへと上がっていったのだろうか。脳が安心を求め、現状維持が快適と考えてしまうシステムは、誰しもが同じように持っていて、上級者といえどもそれに抗することはできないはずなのに。

ここはやはり、名手の言葉を聞いてみよう。

「ベストをつくして打て。その結果がよければよし、悪ければ忘れよ」(ウォルター・ヘーゲン)

「スタンスをとってしまえば、すべてが決定したのだ。なすべきことはただひとつ、ボールを打つの一途あるのみ」(レズリー・ショーン)

「できるだけプレーを単純化し、それに集中し、効率的にプレーすることが、偉大なプレーヤーたちに共通する点である。多くのプレーヤーは、細かいことにこだわって自滅している」(トミー・アーマー)

ここから導けるのは、まず目前のショット・パット以前に起こったことは忘れろということだ。やり直せない以上、悪かったことはもちろん、よかったことも余計なリキみを招いたりするので、忘れたほうがいい。

そして、ミスの予測はせずに、目前のショットを成功させることだけに集中する。これで余計な「予想どおりのミス」は防げるようになるはずだ。

ショットごとにこれを意識し、やるべきことに集中して淡々とプレーを進めていけば、気がついたら壁は越えられていることだろう。

一度その壁を越えてしまえば、セルフ・ダウトとかメンタル・ブロックと呼ばれるマイナス思考は崩れるので、それまでどうしても超えられなかった100や90の壁が、何度もクリアできるようになり、自信へとつながっていくだろうと思う。

「『失敗を恐れない』という姿勢では弱い。『必ず成功させるのだ』という強い意志を持て」(ジャック・ニクラス)

この名言も、「失敗を恐れない」という否定形を超えて、「必ず成功させるのだ」と肯定形にして考えることをすすめている。トム・モリス・シニアの「まだ失敗していない」よりもさらにポジティブな心の持ちようといえるだろう。

今回のまとめ

1. 脳は「NO」を理解しないので、「○○はダメ」「○○してはいけない」と否定形で考えると、そのイメージだけが残ってしまう。結果そのとおりになりやすい

2. 危険を避けるときは肯定形で考え、明確に「ターゲットへ打つ」「これならOK」というふうにイメージしてアドレスをとろう

3. 安心したがる脳をだまし、過去は忘れて目前のショット・パットだけに集中し、コースを淡々とラウンドすれば壁は越えられる

*   *   *

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参考資料:
夏坂健『騎士たちの一番ホール 不滅のゴルフ名言集』日経ビジネス人文庫、2004年
アビ「脳は『No』を理解できない!マイナスなイメージは実現しやすい!」Gridge https://gridge.info/articles/11543 2020年2月26日閲覧

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