いま、コールセンターが新型コロナウイルスのクラスターとなることを危惧する労働者たちがSOSをTwitterで発している。
「クラスターがいつ発生してもおかしくありません」「職場が怖い。給料要らないから休みがほしい」「いまだ三密状態で対策もずさんで、いつクラスター化するか恐怖です」。
仕事終わりの時間帯には、数分おきにこうしたツイートが発信されている。
本稿では、コールセンターの危険な “三密”の実態と現場で働く人の声を紹介しつつ、問題の背景を解説したい。また、こうした危険な状況を改善するための方法についても考えていく。
コールセンターの危険な “三密”の実態
この間、企業や地域を超えて、コールセンターで働くオペレーターたちが、Twitter上で一斉にコールセンターの危険な環境についてSOSを発している。その一部をここで引用して紹介しよう。
また、実際に、複数のコールセンターで従業員がコロナウイルスに感染したことも明らかになっている。中には、クラスターが発生していると疑われているケースもある。
参考:東京で新たに7人感染 クラスター疑いのドコモコールセンターで1人 新型コロナ
さらに、隣国の韓国では、3月中旬にコールセンターで100人規模の大規模クラスターが発生している。
参考:韓国 ソウルで93人集団感染 コールセンター従業員など
コールセンターの環境・構造は、基本的に韓国と共通しており、日本でも同様の事態が発生する重大な懸念があると言えよう。
背景にある非正規差別・派遣差別
個人加盟労組・総合サポートユニオンには、すでにコールセンターのオペレーターから15件ほどの労働相談が寄せられているという(本記事の末尾に無料労働相談窓口も紹介)。
総合サポートユニオンによれば、相談の電話をするオペレーターたちは、強い危機感を持っているが、非正規雇用・派遣労働者という不安定な立場であるために、会社に対して改善を訴えることが難しい状況にあるという。
多くのオペレーターがTwitterでSOSの声を上げているのも、職場で声を上げづらいことの裏返しなのである。
日本のコールセンター職場は、非正規雇用比率が非常に高いという。21ヶ国を対象としたコールセンターの国際比較調査「Global Call Center Project」によれば非正規雇用比率の各国平均は約3割だが、日本は9割にものぼる。正社員はごく一部で、大半は契約社員と派遣社員なのだ。
コールセンターで働く非正規雇用労働者の多くは、細切れの契約で3ヵ月または6ヵ月ごとに契約が更新される仕組みになっている。目標とする契約件数や対応件数が設定されており、契約更新時の給与査定や更新の有無の判断材料にされる。
また、正当な理由であっても欠勤すれば査定でマイナスポイントとなり、上司に意見をすれば査定で低い評価を受けると考えられている。
そのため、明らかな“三密”職場であっても、非正規雇用のオペレーターたちが、上司に改善を訴えることや、休みを取らせてほしいと言うことは難しいのだ。仮に、勇気を出して、上司に改善してほしい旨や休みたい旨を伝えても、相手にされないことが多いようだ。
このように、コールセンターが「クラスター化」しかねない背景には、非正規差別・派遣労働者に対する差別があるのだ。実際に、この間、多くのコールセンターで、正社員は在宅ワークが認められ、非正規労働者は在宅ワークが認められないという明白な差別が起きている。
雇用形態によってコロナウイルスにかかるリスクに差があるはずはないが、非正規労働者だけが、とりわけ派遣労働者が今も出勤を命じられている。
賃金面等の待遇の悪い非正規労働者だけが危険な“三密”状態で働かされるというのはあまりに理不尽な話だが、非正規労働者にとって職場で物を申すことは容易なことではないのだ。
「ストライキ」を呼びかける動き
それでも、SNS上だけでなく、職場でも、具体的に行動を起こそうという呼びかけが始まっている。呼びかけの内容はシンプルだ。「もうみんな休もう」「明日から休みませんか?」というものだ。
こうしたツイートに「ストライキ」という言葉は書かれていないが、これは事実上「ストライキ」の呼びかけだ。
「ストライキ」は、労働者が労働条件の改善などの要求を実現するために、集団的に仕事をしないことである。そうだとすれば、「自分や自分の周り人の命を守るため、明日から休みませんか?」というツイートは、まさに「ストライキ」を呼びかけるものだと言えよう。
「ストライキ」は誰もが持っている最強の武器
「ストライキ」と言うと、自分には縁遠いことや大それたことに聞こえてしまうかもしれない。また、「ストライキ」をすることで、不利益な扱いを受けたり、契約更新を拒否されたり、損害賠償請求をされたりするのではないかと不安に思われるかもしれない。
だが、実は「ストライキ」は労働者にとって、労働条件改善のための最も身近な手段である。「ストライキ」は集団的に仕事をしないことだと述べたが、仕事をしないことは誰にでもできることだ。たしかに勇気を必要とはするが、労働者であれば仕事をしないという手段は誰にでも採れる。
また、「ストライキ」は労働者が持っている最強の武器でもある。労働者が「ストライキ」によってこの労働力の販売を集団でやめると、経営者は企業活動を継続できなくなり利益を上げられなくなる。そうなれば経営者にとっては死活問題であるため、「ストライキ」を通告すると労働者の要求に耳を傾けるようになるのだ。
そして、日本の憲法・労働組合法は、「ストライキ」の権利を保障しており、「ストライキ」を理由とする不利益な扱いや契約更新拒否は違法とされている。また、正当なストライキによって企業活動に損害が発生したとしても、民事・刑事上の責任は免責されることが法律によって定められている。
ただ、ここで注意してほしいのは、労働者個人に「ストライキ」の権利があるわけではないということである。「ストライキ」の権利を合法的に行使できるのは労働者が加入する労働組合なのだ。
勤務先の企業に労働組合が無かったり、社内労組がまともに交渉してくれない場合であっても、地域の個人加盟の労働組合に加入すれば「ストライキ」の権利を合法的に行使できるようになる。
そのため、「もうみんな休もう」という呼びかけは、「個人加盟の労働組合に加入してストライキをしよう」と読み換えると、より効果的な呼びかけとなるだろう。個人で欠勤した場合には査定でマイナス要素になるが、ストライキで会社を休む場合に査定でマイナスとすることは禁じられており、ストライキの方が労働者にとって法的に有利な選択肢だと言えよう。
(ストライキの「権利」や「やり方」については『ストライキ2.0』(集英社新書)も参照してほしい)。
コールセンター運営会社が採るべき措置
とはいえ、いきなり「ストライキ」をすればよいというわけでもない。まずは、”三密”を解消させるように労使交渉をしていくことが大切だ。労働組合は、コールセンター運営会社に次のような措置を求めていくことができる。
そもそも、雇用主には、労働者が安全に働けるよう配慮する法的な義務がある。コールセンターのオペレーターが“三密”の環境で働かされていることは、この義務に違反している。
だから、コールセンターで働く労働者には、“三密”の環境の解消のために、可能な範囲で在宅ワークや出勤者数の削減・就業時間中の換気等を雇用主に要求する権利があるのだ。
また、経営者が“三密”の環境を解消するつもりがなかったり、解消することが困難であると考えていたりする場合、雇用主である経営者は、労働者に休業を指示して休業補償をする義務があると考えられる。言い換えれば、労働者は雇用主に対して、休業と休業補償を求める権利があるということだ。
そして、経営側が上記の措置のすべてを拒否した場合には、労働者側に残された最後の手段として「ストライキ」を行うことが可能である。
その際にも、「ストライキ」を予告しながら経営側に適切な措置を講じるよう迫りつつ、頑なに要求が受け入れられない場合には、実際に「ストライキ」を行うという順番がよいだろう。
もちろん、コールセンターの運営会社が、「ストライキ」にまで至らない段階で、労働者に対する安全配慮義務を果たすという決断をすることが望ましい。ストライキ中は労働者の給与も発生しないからだ。
いずれにせよ、いつまでも無理な出勤を続けて自らや家族の命を危険にさらすわけにはいかない。”三密”の状態を一刻も早く解消させるために、コールセンターの非正規労働者の方には、ぜひ労働組合に加入して労使交渉に臨んでほしい。
労働組合は社内のものに限られない。一人でも社外の労組に加入すれば、労使交渉もストライキも可能だ。私が代表を務めるNPO法人POSSEでも労働相談の窓口を設け、労働組合や弁護士とも連携して支援にあたっている。
コールセンター等の“三密”職場で働いていて不安のある方は、ぜひ社外の専門家に相談してほしい。
無料労働相談窓口
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。
03-6804-7650
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*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。
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April 14, 2020 at 09:31AM
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