クルマのアンテナは時代とともにさまざな形に変化してきた。古くはクルマのAピラーやCピラーに取り付けられたアンテナポール、車内のラジオのスイッチと連動して伸びる電動伸縮タイプが主流だった。
その後、ガラスに埋め込まれるガラスアンテナ、フロントウインドウ上のルーフに取り付けるルーフアンテナ、リア側のルーフに取り付けられたポールタイプへと進化を続けてきた。
最近ではシャークフィンアンテナ(またはドルフィンアンテナとも呼ばれる)が主流になってきた。
そこで、クルマのアンテナ最新事情をはじめ、ポールアンテナやシャークフィンアンテナのメリット、デメリットを解説していこう。
文/野里卓也
写真/ベストカー編集部 ベストカーWeb編集部 原田工業 トヨタ 日産 ホンダ マツダ
【画像ギャラリー】シャークフィンアンテナを採用している主な最新車はこれだ!
ロッドアンテナは手動式から電動式へ
軽自動車からコンパクトカー、それにSUVから高級セダンまで、ほぼ一律に装備されているのがアンテナ。
車種によってはガラスやスポイラーに組み込まれたタイプもあるが、いずれにせよクルマにとっては必需品だ。
以前は多くの車種に見られたのがAピラーに収納された伸ばすタイプのアンテナ。普段は収納させたままで良いが、ラジオの受信感度を高めたい時はアンテナを手動で延ばすことで感度が良くなる。
このAピラーに設置する利点だが、ドライバーが運転席からたやすく手が届くことで伸縮させやすいのと、ラジオのユニットまで短い距離で配線できるというメリットがあるほか、高さ制限のあるゲートや車庫、洗車機などは縮めることでそれらをクリアする利点もある。
今では一部の商用車を除き、採用されるモデルも少数派となっているが、そうした作業に懐かしさを覚える人も多いはず。
Aピラーから伸ばすアンテナのタイプは、ロッドアンテナといって釣り竿のように数段の伸縮式になっているのが多い。
アンテナの基本形であり、電波を受信する性能が高い。基本はボディがアースとなっていて、電波の波長の1/4とかに合わせた長さに作っている。
しかし、電波の波長に合わせるとあまりにも長くなってしまい、クルマに搭載できなくなってしまう。
理想的にはルーフの真ん中へ垂直に立てるのが良く、クルマのように常に移動する乗り物でも影ができ、なおポジションとなり有利になる。いずれにしても伸縮式の場合、最後までしっかり伸ばすのが基本ではある。
そんなロッドアンテナだが実はボディ内部に収めるのにスペースが必要なので、設置場所には苦労する。
Aピラーの外に取り付けるタイプだと良いが、ロッドのベースを収めるためにはトランク内部やフロントフェンダーといった場所に限られてくる。
かつて採用されていた電動タイプになるとモーターやアンテナを出し入れするワイヤーの巻き取り機構が必要になってくるので、スペースが大きくなりコストもかかる。
ちなみに長年使用することでそのワイヤーが破断して伸縮不能になってしまうことも多々あった。
また、中空パイプになっているので、雨や洗車時の水も少なからず入る恐れがあり、それを排出することも考えないといけない。
さらにロッドを伸ばしている時に引っかけてしまうと折れやすいという難点があるほか、ロッドの伸縮部が接触不良を起こしやすく、経年劣化で受信性能が低くなる。
そしてデザインや空力性能でも不利。ロッドを長く伸ばしたままだと空気抵抗で曲がってしまい、風切り音が出るので、静粛性で言えば大幅に不利になるのだ。
以上の点からロッドアンテナはしだいに採用される車種も減少している。
風切り音で言えば、以前に関心した仕組みがあった。1990年代からだが欧州車で短いタイプのアンテナがルーフ後端に付くモデルが出てきたが、よく見るとスパイラルに針金が巻いてあるのがあった。
実はこういった仕組みも風切り音を減少させるためのもの。同時に車両の後ろにあるので、風切り音が車内に聞こえにくいといった面もあったようだ。
こうした短いタイプのアンテナは、アンテナのベースに電波を増強するブースターが入っており、電源が必要。
そのため本来必要なアンテナの長さがなくても受信はできるが、社外オーディオに変えたときなどはアンテナアンプ線を正しくつけないとラジオが全然入らなくなることがあるので注意が必要。
シャークフィンアンテナがなぜ主流になったのか?
さて、イルカのヒレのようなアンテナをドルフィンアンテナまたはシャークフィンアンテナとも呼ばれているが、今ではこのフィンタイプのアンテナが主流だ。
2000年頃から衛星ラジオとナビゲーション、テレマティクスの普及から、これらに対応するアンテナとして開発され、2010年代に入ると、アナログラジオをはじめ、デジタルラジオ、GPS等衛星システム、移動通信システムなどさまざまなメディアとの複合が可能となった。
自動車用アンテナメーカーの最大手、原田工業へそのあたりの事情を聞いてみたところ、「メーカーから、ボディデザインを損なわないアンテナの要望があり、現在はその要望に沿ったタイプのアンテナが選ばれるようになっています。フィンタイプですとデザインに支障をきたすことなく、機能も発揮するように設計されています」(原田工業・担当)とのこと。
魂動デザインとシャークフィン
シャークフィンアンテナはクルマのデザインを損なわないデザインと言われているが、マツダでは2012年に発売されたCX-5から魂動デザインに溶け込むシャークフィンをメーカー自ら開発している。
シャークフィンアンテナの利点は、スッキリとした外観でクルマのデザインに違和感を与えないこと、走行時に風切り音を発生しないこと、そして外したり畳んだりする必要がないこと。
さらに、アンテナの複合化(複数の受信装置を一つに組み込むこと)にも対応しやすくなるが、実はそんないいことばかりではなかったという。
アンテナとしてきちんと機能させるためには、技術的なハードルがいくつもあったという。
まずは受信感度を確保しながら、高さを低くすることが最初のハードル。シャークフィンアンテナは取り外しができないため、クルマの全高がアンテナの高さで決まってしまうからだ。
そこで打開策として、従来は棒形状だった部品を渦巻きコイルに変え、電子基板で受信部を構成することを思いつき、受信信号は、アンプと呼ばれる部品で増幅してラジオ本体に送ることで解決したという。
魂動デザインと溶け込ませることにも苦労したという。重要なのは、今にも動き出しそうな生命感や躍動感を感じさせる「魂動デザイン」にマッチしていること。
アンテナ単体が目立つのではなく、クルマに取り付けた状態で全体のシルエットに馴染んでいるかどうか。そのため、取り付ける位置も慎重に吟味されたという。
アンテナはボディから飛び出した機能部品だから、デザイナーからの要求はとにかく低く、そして小さくが至上命題だったという。
スポイラー埋め込みアンテナとガラス埋め込みアンテナは?
話題性でいえばスポイラーに内蔵したタイプやガラスに埋め込むタイプのアンテナだろう。スポイラーにアンテナを内蔵することで、見た目にもスタイリッシュになる。
一方、ガラスに組み込むタイプのアンテナもある。フロントやリア、サイドガラスなどに設定されており、デザイン性やもちろん耐久性に優れているのが特徴。
実は車両ごとにチューニングを行なっており、しかもガラスに後付けで貼り付けているワケではない。
ガラスに埋め込む必要があるのでガラスメーカーのほうで製造から請け負うことで、自動車メーカーへ納入しているという。
ただし、注意しなければいけないポイントもある。アンテナ線部にミラータイプのフィルムを取り付けると受信感度が低下し、ノイズが入る恐れがある。
また手荷物などで傷付ける可能性もあり。清掃する時もアンテナ線を切らないように丁寧に軽く拭く必要がある。
というわけで最近は、デザインとマッチしたタイプのアンテナが主流になっている。
原田工業の担当者はドルフィンアンテナについて、
「メディア(ラジオやTVなど)は、デジタルラジオにも対応しております。また、カーナビで使われるGPSのほか、ETC車載器のアンテナまで内蔵するケースもあります。最近ではLTE(Lomg Term Evolution。携帯電話に使われる通信規格)といったデータ通信用モジュールを内蔵する場合もあり、小さいながらも数多くの機能を求められるようになっています」とコメント。
クルマと通信端末をセットしたシステムと言えば、その元祖とも言うべきサービスがある。トヨタが2002年頃に自社のモデルで搭載したG-BOOKだ。
クルマを中心とした情報ネットワークサービスで、ニュースや天気予報はもちろん、ナビゲーションと連動したタウン情報などを提供。
そのほか、運転中にトラブルが発生した場合、車両位置をいち早く把握し、救援車両を手配するなどさまざまサービスを提供するものだ。今ではさらに進んでスマホと連動した機能も搭載するなど進化を遂げているのだ。
それらの進化を支える、小さいながらも働きモノ。それがアンテナなのだ。今後は、シャークフィンアンテナやガラスプリントタイプの普及とともに、さらに小型化&高性能が進み、スポイラー埋め込みアンテナも増えていくだろう。
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