2020年4月15日 午前7時20分
【越山若水】「お母さん、薬ばもう飲んだほうがよかね？」薬の入った袋を掲げながら祖父が母に訊（たず）ねた。「勝手にしなよ、そんなの本当は飲まなくてもいい薬なんだから」「すみません。健斗、水くれる？」「健斗に甘えるな！自分でくみに行け！」▼羽田圭介さんの２０１５年芥川賞受賞作「スクラップ・アンド・ビルド」（文春文庫）の一節だ。主人公、健斗の母と同居の８７歳の祖父とのやりとり。デイサービスなどを利用し介護されている祖父には、血縁者故の甘えもあり嫁姑（よめしゅうとめ）よりも実の親子のほうが険悪になると健斗は感じている▼介護保険制度が創設から２０年を迎えた。家族で介護を抱え込まず社会全体で支える介護の社会化を掲げスタートした。介護認定者は増えたが、それ以上に費用は膨らみ人手不足は慢性化、サービスの持続が難しくなっている▼制度は見直される度に複雑となり、利用者のストレスは募る一方らしい。家族らの介護者は在宅サービスを多く利用しており、生活援助はその最たるものの一つ。だが利用時間は短くなり回数も制限されてきているようだ▼高齢化が進む中「総介護社会」（岩波新書）の著者、小竹雅子さんは制度創設の理念だった「利用者の自己決定、自己選択」を取り戻すには何ができるのかと疑問を投げかける。冒頭の母と祖父の会話は辛（つら）すぎる。２０年の節目に思いを巡らせてみようか。
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