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聖火 移りゆく 五輪とニッポン>第1部 もう走れません(4) 「銅は絶対取らないかん」:社会(TOKYO Web) - 東京新聞

円谷幸吉が東京五輪男子マラソンで獲得した銅メダル=福島県須賀川市の円谷幸吉メモリアルホールで

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 屈強な男たちが手に血豆をつくり、もっこを担いで土を運び続ける。陸上自衛隊朝霞(あさか)駐屯地にある自衛隊体育学校(東京都練馬区)で急ピッチで進んでいた三百メートルトラック造成工事。「なんでこんなことしなきゃならんの」。工事に汗を流した元重量挙げ選手の三宅義信(80)は、当時の率直な気持ちを打ち明ける。

 三宅は東京五輪の前の一九六〇(昭和三十五)年ローマ五輪で銀メダルを獲得したエリート選手。六二年四月、自衛隊が東京五輪に向けた選手強化のため、体育学校に「特別体育課程」を新設すると、陸上の円谷幸吉らとともに特別課程に選抜された。

 だが体育学校に来ると、スポーツ施設は射撃場以外、ほとんどない。三宅は校舎の軒下で練習。円谷が走る場所もない。校長の命令で、選抜選手全員がトラック造りに駆り出された日々が、三宅に苦い思い出としてよみがえる。

 自衛隊自体が、前身の警察予備隊発足(五〇年八月)から数えても十三年目。二年前に日米安全保障条約の改定を巡り「六〇年安保」の激しい反対運動があったばかり。自衛隊を取り巻く環境は混乱していた。

 しかし、円谷は幸運に巡り合う。二八年アムステルダム五輪三段跳びの金メダリストで、東京五輪陸上総監督の織田幹雄が円谷に目を付け、箱根駅伝の名門、中央大を紹介する。中大練馬グラウンドは体育学校に近く、コーチ陣も練習相手も充実している。

 当時、円谷は5000メートルなどトラック競技で頭角を現していた。織田はそのスピードにほれ込み「世界のスピードマラソンに対抗できる」と見込んだと、円谷の選手仲間だった元自衛官斉藤章司(86)が振り返る。

 中大で練習するため、円谷は自衛隊に籍を置きながら、中大夜間部に入学。安保闘争の余韻が強いキャンパスで、自衛隊への反感を味わっている。

 東京に住む円谷の六歳上の姉、岩谷富美子(85)は、弟が新宿区の自分のアパートで、自衛隊の制服から黒いジャケットに着替えて大学に向かったのを覚えている。「制服で行ったら過激派に追いかけられた」と円谷から聞いている。

 このころ、重量挙げの三宅も競技中、「税金泥棒」「国のカネ使って強いのは当たり前」と、ひっきりなしにやじを浴びている。再軍備に向かう自衛隊に、世間の風当たりは強かった。

 「とにかく円谷に日の丸を揚げさせよう」。体育学校の同僚だった宮路道雄(82)は、円谷の練習相手を務めた決意と責務を思い起こす。「東京五輪代表が、自衛隊から出たのだから」

 円谷より三歳上の宮路は、体育学校に入ったときは円谷より速かった、と記憶する。だが五輪イヤーの六四年三月、円谷は初のフルマラソンの中日名古屋マラソンでいきなり五位入賞。その勢いで翌月の五輪最終選考会で君原健二(八幡製鉄、現日本製鉄八幡製鉄所)に次ぐ二位となり、自衛隊で一人、マラソン代表に選ばれた。

 宮路は落選。原隊に戻ろうとしたところ、円谷が信頼を寄せる体育学校のコーチ、畠野洋夫(故人)に呼び止められる。

 畠野は同郷の鹿児島出身。宮路は複雑な感情を押し殺し、円谷のペースメーカーを引き受ける。はっきり言われたわけではないが、何を背負うか、覚悟はあった。「銅メダルは絶対取らないかん」。日陰者扱いの自衛隊が、自国開催の五輪で日の目を見るためにも。 (敬称略)

<60年安保闘争> 1960(昭和35)年5月、当時の岸信介首相が目指した日米安全保障条約の改定に対して起きた大規模抗議運動。改定された新条約には、52年発効の旧条約になかった米国の日本防衛義務が明記されたが、在日米軍の固定化により、米国と共産圏との対立に巻き込まれる懸念が浮上。自民党が60年5月に条約承認の単独採決に踏み切ると、国会を取り巻く大規模デモが連日発生。6月に新条約が発効すると岸首相は辞任した。70年にも条約延長を巡り、ベトナム反戦運動とも連動して反対運動が起きた。岸氏は安倍晋三現首相の祖父。

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1954年7月、自衛隊の発足式で行進する隊員=東京・越中島で

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