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アップル、MSがまだ「ゲームのネトフリ」になれない理由。ゲームのサブスクは本当に成立するか? - Business Insider Japan

App Store App

4月2日、アップルは「Apple Arcade」にオリジナル作品を含む複数のゲームタイトルを追加した。

撮影:小林優多郎

映像と音楽の世界では「サブスクリプション」(定額での使い放題型)が当たり前になった。では、次はどの業界だろう? すぐに思いつくのが「ゲーム」だ。

ゲームは非常に大きな産業となったが、構造的にある種の閉塞感もある。それを打開するものとして、アップルやマイクロソフト、ソニーにエレクトロニック・アーツ(EA)などがすでに、サブスクリプションでのゲーム提供を始めている。

しかし、「ゲームにおけるネトフリ」が成立するまでには、まだかなり難しそうだ。アップルの取り組みなどを軸に、ゲームとサブスクの関係を考えてみた。

「運営型でないゲーム」のためにアップルを選ぶ

Apple Arcade スクショ

月額600円で特定タイトルのゲームが遊び放題になる「Apple Arcade」。

出典:アップル

「運営型のゲームは、ストーリーを楽しませる、というよりはゲームを楽しませる『サービス』。それはそれでいいのですが、やはり僕としてはストーリーを語ることにこだわりたい」

ファイナルファンタジー・シリーズの生みの親であり、現在はミストウォーカーで独自タイトルを開発しているゲームクリエイターの坂口博信氏は、3月26日に「Apple Arcade」で公開された新作RPG「FANTASIAN」について、インタビューでそうコメントした。

現在のスマートフォン向けのゲームは、多くが「基本プレイ無料」だ。収益源は広告や有料アイテム購入などの「追加課金」が中心。長く遊んでもらい、その結果として広告を見る・有料アイテムを買うなどの行為につなげる「運営」が重要になる。

だが、運営型のゲーム構造は、すべてのゲームに合うわけではない。ゲームの楽しさを決める「ゲームシステム」は、どうやってお金を集めるかに依存する部分が大きいからだ

100円ずつ入れて遊ぶゲームセンターのゲームと、「買い切り」の家庭用ゲーム、そしてアイテム課金の運営型ゲームでは、成功を目指せば目指すほど違う構造にならざるを得ない。

FΛNTΛSIΛ‪N

「FΛNTΛSIΛ‪N」。

©MISTWALKER

坂口氏が得意としてきたスタイルも、基本的には運営型ではない。

「自分が得意で、思い入れがある分野で勝負したい」との意図もあり、FANTASIANは、「一度ダウンロードすればずっと遊べる」モデルが採用された。

ただし、今までと違うのは「ゲームを購入して遊ぶ」のではなく、アップルの定額制サービスである「Apple Arcade」に加入する、という点だ。坂口氏はスマホで「非運営型ゲーム」にチャレンジする仕組みとして、アップルとのパートナーシップを選んだことになる。

Apple Arcade

月額600円で特定タイトルのゲームが遊び放題になる「Apple Arcade」。iPhone、iPadなどさまざまなアップル製品で遊べる。

出典:アップル

Apple ArcadeはiPhone、iPad、macOS、Apple TV向けで、月額600円で対象のゲームが遊び放題になるサービスだ。遊び放題になるゲームには、追加の課金も広告もないのが特徴だ。

アップルはサービス収益拡大を目指しており、Apple Arcadeもその一角……と言われてきた。狙いは「ゲームのNetflix」と説明することができる。

契約者から得た原資を元にオリジナリティーの高いコンテンツをパートナーとともに開発し、会員限定で提供する。これは、映像配信における「オリジナルコンテンツ施策」に近い。

ゲームメーカーとしては売り切りのパッケージに近い「追加費用や運営を前提としない」ゲームを、アップルのバックアップを得て開発できることになる。ビジネスモデルとしては納得感が高い。

ようやく不足していた「キラータイトル」を充実

太鼓の達人 Pop Tap Bea‪t

「太鼓の達人 Pop Tap Bea‪t」。

©︎ 2020 BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

だが、Apple Arcadeは2019年9月にスタートしたものの、注目度と裏腹に、アップルはスタート後も一度も契約者数を発表しておらず、契約者数の伸びは苦戦していると見られている。

理由は単純。いわゆるキラータイトルが不足していたのだ。確かにユニークなゲームが出てくるものの、誰もが知るようなわかりやすい超有名ゲームが多数あったわけではなかった。

この春アップルはテコ入れの一環として、FANTASIANに代表されるキラータイトルを増やした。ソフトの本数が180本を超え、FANTASIANを含む30本の新規タイトルを同時リリースした。

4月9日に追加されたタイトルの例

  • バンダイナムコ・エンターテイメントによる「太鼓の達人 Pop Tap Beat」
  • 「みんなのゴルフ」開発元のクラップハンズ開発による「CLAP HANDS GOLF」
  • 家庭用ゲーム機向けアクションゲーム開発で多くの実績を持つプラチナゲームズのスマホ初挑戦作「World of Demons – 百鬼魔道」

日本国内でも注目されそうな作品が含まれている。筆者もプレイしてみたが、どれも非常に完成度・満足度が高い。

さらには、チェスやソリティアのような超定番ゲームも用意し、「やりたい」と思うゲームが増えるよう配慮している。

課題はあれど「既存構造」に残るゲーム開発者

運営型ゲーム

「運営型ゲーム=悪」というわけではない。(写真はイメージです)

REUTERS

では、これでApple Arcadeは持ち直し、ゲームにサブスクの波がやってくるのか……と言われると、筆者としては「まだ難しいのでは」と思わざるを得ない。

ゲームファンはオンラインゲームをはじめとした「運営型」に慣れ始めていて、運営型=悪ではなくなっている。一部に課金要素が強いゲームがあるが、ヒットしているのは課金要素が「ほどほど」のものだ。

AAAのような、開発と広告に数十億円単位でお金がかかるタイトルは、現状、あらゆるプラットフォームで発売してビジネスパイを広げる戦略を採るのが一般的だ。

より小さい規模で発想重視のゲームはApple Arcadeなどとの相性も良さそうだ。しかしそれもまた、ゲーム機やPCの上にある市場との戦いがあり、今の市場規模ではサブスクリプションに移ってきづらいだろう。

Xbox Game Pass

サブスクリプション型のゲームサービスは他社も先行して提供しているが……。

Miguel Lagoa / Shutterstock.com

サブスクリプション型としては、マイクロソフトが運営する「Xbox Game Pass」があり、EAが運営する「EA Play」もある。前者はマイクロソフトが、ゲーム機とPCの上で展開する「Xbox Live」というプラットフォームの魅力を高めるために展開している部分があり、原資はサブスクリプションからだけではない。

また、EA PlayはEAが得意とするスポーツゲームなどの対策を軸に展開しており、「EAファンに向けた策」に近い。映像配信でいえば、ディズニーがやっている方針に近い。

映像配信においてオリジナルコンテンツが主軸でありキラーコンテンツとなっていったのは、ドラマや映画をつくる制作会社が「配信事業者と組んでオリジナルコンテンツをつくると儲かる」土壌ができたから、と言ってもいい。

現状ゲームでは、それと同じ構造が生まれているとは言い難い。大型ヒットが見込めるものは普通に展開した方が収益は高くなる、と考えられているからである

ゲームビジネス多様化の中で、既存のビジネス構造が完全に崩れ、「アップルやマイクロソフトが展開するサブスクリプションに入った方が良い」と考えるゲームメーカーが増えて行けば、話は変わるだろう。だが、今は「苦しいがそこまでではない」のも事実だ。

「ゲームもサブスクが当たり前」の時代はまだ先か

スマホを持つ人

「ゲームでもサブスクリプションに入るのがあたりまえだ」という認識は定着するか?

撮影:今村拓馬

もう一つ忘れてはいけないこともある。それはゲームのメディア特性だ。

映像や音楽に比べ、ゲームはプレイ時間が長く、コンテンツの消費量が遅い。同時に何本もゲームをするのは一部のファンに限られる。

「あのゲームがやりたい」と強く思う時はあるし、「なにかゲームでもやりたい」と漠然と思う時もある。ではその時のために「毎月料金を支払いたい」と思うのは、まずは熱心なゲームファンだろう。

そこまでゲームに熱心でない人々は、いくら質が良くて安心できるゲームが多くても、なかなか毎月お金は払わない。

基本プレイ無料のゲームがヒットするのは、「ちょっとゲームがしたい」人がすぐに入ってこられるからでもある。

Netflix App

Netflixなどのように「入っても損しない」というイメージを持つ人が増えるか。

撮影:小林優多郎

映像の世界では、市場の変化によって「とりあえずどこかのサブスクリプションに入っておこう」というイメージを持つ人が増えていった。そうしても損ではないことが浸透した、と言ってもいい

ゲームでも同じような認識が広まるまでには、まだまだ時間が必要であるように思う。

そのためには、「月額数百円くらいなら払う」意識のあるゲームファンをしっかりつかみ、「ゲームでもサブスクリプションに入るのがあたりまえだ」という認識を定着させていく必要がある。

どのサービスも、まだその入口に立てた段階であり、先は長い。

(文・西田宗千佳 編集・小林優多郎


西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。

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