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VR演劇「僕はまだ死んでない」 演劇とは何かに挑んだ意欲作 - ITmedia

産経新聞

 演劇とは何か。コロナ禍で増える演劇の配信を見ながら何度か自分に問うた問題に、大きな気付きを与える意欲作が生まれた。演出家、ウォーリー木下が原案、演出のVR演劇「僕はまだ死んでない」は配信専用として撮影され、病室で横たわる主人公の語りと周りに集まる近親者の会話が主体の作品。「VR演劇」の名の通り、専用のゴーグルやメガネを使って映像を立体的に見たり、顔を動かして360度の映像を見たりできる。

photo 観客は寝ている主人公の目線になって、病室を360度見ることができる

 「3D映画」とどう違うのか。ウォーリー木下は「お客さんが好きなところを見られるのが演劇の魅力。VR演劇も見たいところが見られる。また、物語は10分以上のシーンに分けて撮影した。ミスが許されないので役者の緊張感は本番の舞台に近い」と工夫を語る。これは「本番一発勝負」をうたう「テレビ演劇 サクセス荘」(テレビ東京)に似ている。本作でも役者がせりふをとちっても、撮り直しはしない。

 約70分という上演時間にも工夫がある。「劇場は入ったら没入できるが、配信は長くなると電話が鳴ったり家族が入ってきたりして途中で止めてしまう。1時間くらいが捻出できる限度」(同)との判断だ。

 果たしてどんなエンタメが飛び出してくるかと思いきや、作品のテーマはシビアだ。脳卒中で倒れた主人公の直人(内海啓貴)は一命を取り留めるも、動かせるのは眼球とまぶただけ。病室に集まってきた父、慎一郎(斉藤直樹)、幼馴染の碧(加藤良輔)、別れ話が進んでいた妻の朱音(渋谷飛鳥)が担当医の青山(輝有子)の意見も聞きながら、直人の終末医療をどうするか本音で話し合う。

photo 主人公に向けて文字盤を見せる父、慎一郎(斉藤直樹)は、実はベッドに置かれた360度撮影できるカメラに向かって演技をしている

 テレビドラマに近いタッチの脚本だけに、映像で見ると演劇的な言い回しの演技が少し大げさに見えるのが気になるところ。映像なのか演劇なのか、役者側の戸惑いもあろう。直人の独白のシーンは映画的に作ってあり、これを有観客の劇場で上演するなら、スクリーンに映し出すのかと想像したりもする。

 目線と一緒に視界が変わるのは、純粋に楽しい。直人の目線になり4人の顔を見たり、天井を見上げたり。天井といってもそこには舞台用の照明があり、自分が舞台にいる感覚だ。客席がステージの真ん中にある、逆円形劇場に近い。役者の目線になることは通常の観劇では不可能だけに、ここにも「演劇とは」という疑問が生まれる。これは3Dの飛び出すエンタメというより、没入する体験型エンタメという印象だ。

 専用メガネを使わず2D映像でも楽しめるが、ヘッドフォンとゴーグルを使うと、「今これを見なければならない」感は強まる。演劇の魅力の一つは「ここからもう逃げられない」(物理的に劇場を出るほかない)感覚を味わうことかもしれず、そういう意味で本作は演劇だ。

 とはいえ、あらゆるもののボーダーがなくなる時代に、「演劇」か「映像」かとジャンルにこだわること自体がナンセンスだろう。結論としては、VR演劇は新しいエンタメのジャンルと考えるのが一番しっくり来る。採算が取れるなら、今後も多彩な才能による新作を見てみたい。

 配信チケット購入は31日まで。問い合わせは、CATチケットBOX(電)03-5485-5999。(道丸摩耶)


 公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。

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