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コラム:混迷極まる米大統領選 「強い米国」はもう戻らない=鈴木明彦氏 - ロイター

[東京 6日] - 米国大統領選は共和党のトランプ大統領、民主党のバイデン前副大統領の両候補が接戦を続け、最終決着の行方はいまだ不透明だ。新大統領が決まるまでに時間を要する可能性もあるが、両氏のどちらが大統領になっても「強いアメリカ」が戻ることはない。これからも、頼りにならない米国と、その一方で強圧的になる中国という対立軸に世界は悩むことになる。「米国ファースト」を続けてきた日本の外交方針も変わってくる。

11月6日、米国大統領選は共和党のトランプ大統領、民主党のバイデン前副大統領の両候補が接戦を続け、最終決着の行方はいまだ不透明だ。写真は4日、ホワイトハウス前で米国旗を手にする女性(2020年 ロイター/Jonathan Ernst)

<新型コロナとの戦い、最悪の負け組となった米国>

新型コロナウイルスは世界中で猛威を奮い、各国の経済・社会に大きなダメージを与えている。コロナとの戦いに勝者はいないのだが、コロナ対策の巧拙によって、国ごとの感染の度合いと、経済・社会に与えるダメージに大きな差が出てくる。

米国と中国の状況を比べてみると、米国では累積の感染者数が900万人を超え、死者も20万人を突破、ともに世界一という状況だ。これに対し、中国は感染者が9万人強、死者も5000人弱にとどまっている。

数字の信ぴょう性についてはいろいろ指摘があるが、ここまで被害の差が広がってしまうと、米国の新型コロナ対応に問題があったことは明らかだ。中国の強権的な感染症対策に批判はあるものの、感染を抑えるという世界共通の戦いにおいて、米国は最も厳しい敗北を喫した国と言えよう。

経済に与える影響で見ても、米国が今年はマイナス成長不可避であるのに対して、中国は小幅ながらプラス成長を維持する見込みだ。2019年には米国の3分の2であった中国の経済規模が20年には4分の3にまで高まる。2030年ごろには米中の経済規模が逆転するとの見方が一段と現実味を帯びてくる。

経済規模が接近してくるのに伴い、国防費や研究開発費でも中国が米国に迫って凌駕してくるかもしれない。米中の対立はすでに、貿易戦争から安全保障や技術覇権での対立に重点が移っているが、コロナショックで大きなダメージを受けた米国は、中国との関係においても劣勢になってくる。

<頼れない国になった米国>

かつて、強いアメリカの復活を唱えてレーガン大統領が誕生した状況とは様変わりし、今回の大統領選ではどちらが勝利しても、自由と民主主義を掲げて世界をリードしたアメリカが戻ってくることはなさそうだ。

世界に貿易戦争を仕掛けて、中国との関税引き上げ合戦を始めたのはトランプ大統領だが、その前から米国は、WTO(世界貿易機関)による多国間の枠組みでの自由貿易の推進に距離を置いていた。2国間主義に転じている米国が、グローバルな自由貿易を推進することはない。

また、世界の警察官の役割に後ろ向きになっている米国は、これからもアジア太平洋における存在感を低下させるだろう。

大統領選を通して、米国の民主主義が機能不全に陥っている実情も明らかになった。集会でマスクをするかしないかが争点となり、政策を戦わせるというよりは非難合戦になり、選挙の信頼性までが問題となるようでは、自由の旗手であり、民主主義陣営のリーダーであった米国の面影はない。

大統領選を通して米国内の分断の深刻さも明らかになった。米中の対立が激しさを増し、世界は米国陣営と中国陣営に二分される状況となっているが、米国内の混乱ぶりを見ると、果たして米国を頼りにしてよいものか、日本も含めて米国陣営の足並みが乱れてきそうだ。

<米国の衰えを待つ中国>

中国は、対中強硬姿勢を続けるトランプ大統領が再選するよりも、バイデン大統領の誕生を望んでいるとの見方もあるが、今や対中強硬路線は民主党・共和党の党派を超えた共通認識となっており、大統領によって変わる余地はあまりない。

むしろ、新型コロナ対応や大統領選を巡る米国内の混乱を見て、中国は自国の政治体制や政策対応に自信を深めているはずだ。米国と正面から対決しなくても、国力を高めていくことに専念し、米国の力が徐々に衰えていくのを待った方がよいと思っているのではないか。

先日開催された中国共産党の中央委員会第5回全体会議では、2035年に1人当たりGDP(国内総生産)を中等先進国並みにする、という目標が示された。あいまいな表現ではあるが、2万ドル(約209万円)ぐらいの水準を想定しているとすると、15年間で現在の2倍にするという目標となり、年5%弱の成長を続けていれば達成可能だ。

もっとも、過去の一人っ子政策の影響で高齢化が急速に進展し、現役世代に相当する生産年齢人口も減少している中国で、15年間安定した成長を維持するのは簡単ではない。それでも、米国の弱体化がこれからも続き、中国が米国を上回る成長を続ければ、米国を抜いて世界一の経済大国になることは十分想定できる。

<徐々に広がる日米の距離感>

日本は、日米安全保障条約の下、安全保障を全面的に米国に依存するという、経済大国としては特異な体制を続けてきた。

米国との同盟関係を止めるという選択肢は日本にはないだろうが、日本への米軍駐留費のさらなる負担を要求している米国が、駐留米軍の縮小を持ち出さないとも限らない。いずれにしても防衛費負担を低く抑えて経済成長に専念するということが難しくなる。

新型コロナ対応や大統領選を巡る混乱を見れば、今の米国が第二次世界大戦後の戦勝国であったころと違うことは明らかだ。アジア太平洋における米国の存在感はさらに後退する。

米国との同盟関係を今と同じ形で続けることは難しい。日米安保条約の下、米国との良好な関係を維持していれば、日本の平和が保たれるというパクスアメリカーナの時代はすでに終わっている。日本と米国との距離感が少しずつ開いていくだろう。

<日中の緊張感は続く>

一方で、日本経済の中国依存度はさらに高まるだろう。中国への依存を緩和するため、他のアジア諸国に生産拠点などをシフトする動きは続くが、それでも中国が果たしている役割を完全にとって代われる国はないだろう。また、13億の国民がいる成長市場を無視して日本経済の成長が続くとは思えない。

米中対立が続く中で、中国は日本との関係改善を持ち出してくるかもしれないが、日本と米国との同盟関係が続く以上、中国の日本に対する対応も基本的には厳しいままだろう。

日本にとっても、中国との間では尖閣諸島を巡る問題もあり、米中対立で中国側に立つことは考えられない。中国が経済大国になった今、かつてのような日本からの経済援助を軸にした日中友好路線に戻ることはない。

米中の対立がこれからも続くことは日本にとっては厄介な問題だ。華為技術(ファーウェイ)HWT.ULの問題に象徴されるように、日本企業がグローバルに効率的なサプライチェーンを形成し、成長することは難しくなっている。

また、米国の安全保障の傘の下で中国と対峙することで日中間のバランスが保たれてきたが、米国が頼れる国でなくなってくると、米中双方との適度な距離感をとった独自の外交が必要になってくる。

<米中以外の国々との連携が重要に>

もっとも、こうした悩みは日本だけのものではない。アジアの国々は昔から中国と米国との関係をいかにバランスよく維持していくか、が外交の基本だった。欧州やオセアニアの国々にとっても、頼りにならなくなった米国に対する失望感と強大化して強圧的になってくる中国に対する警戒感は、共通の認識だ。

日本にとっては米中以外の国々との連携を深め、独自の外交を展開するチャンスでもある。すでにそうした方向に舵が切られているのではないか。

トランプ大統領がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの離脱を表明した。これまでの日本であれば、アメリカがそう言うのだから仕方がないということで終わってしまったかもしれないが、今回は残った11カ国をまとめる形でTPP11を合意に持ち込んだ。

これまでの日本では考えられない積極的な外交であり、結果として日本は米中を除く国々と自由貿易推進の砦を持つことができた。この砦は大事にしないといけない。たとえ、米国がTPPに戻りたいと言ってきても、丁重にお断りした方がよさそうだ。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

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