競馬界には勢いがある。日本中央競馬会(JRA)の馬券売り上げは昨年まで9年連続で増えた。人びとの夢を乗せ、馬が力強く駆けていく。ただ、華々しい活躍をする名馬の傍らで、ひっそりと引退する馬もまた多い。そうした引退馬を救い、活用する取り組みが始まっている。
6月上旬、岡山県吉備中央町にある岡山乗馬倶楽部に、1台の赤い大型運搬車が横付けされた。やがて手綱を引かれて降りてきたのは黒鹿毛の馬。つい最近まで競馬場を全速で駆けていた5歳のメランだ。
拡大する馬の運搬車から降りるメラン=2021年6月5日午後0時45分、岡山県吉備中央町
デビューした2019年に2勝したものの、その後は勝てなかった。脚の故障もあって引退し、乗用馬になる調教を受けるためにやってきた。去勢を済ませている。もう速さも強さも求められない。第二の「馬生」が岡山で始まった。
落ち着いた様子に「乗馬に向いているかも」
さっそく新しい仲間が待つ厩舎(きゅうしゃ)に入れられた。「先輩」は16頭。名馬ディープインパクトの子も5頭いる。メランは妙に落ち着いている。
「これだけ静かな競走馬は珍しい。普通は新しい環境に戸惑い、せわしなく動き回るんですが……。乗馬に向いているかも」と矢野孝市郎さん(47)。同倶楽部内にあって競走馬を再調教する団体「NPO法人サラブリトレーニング・ジャパン」の事務局長を務めている。
競馬の世界は厳しい。毎年約…
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