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トランプ弾劾よりコロナ対策優先、バイデン民主党のもう1つの「ジレンマ」 - ASCII.jp

Photo:PIXTA

トランプ前大統領に「無罪」評決
民主・共和両党の思惑一致

 トランプ前大統領の2回目の弾劾裁判で、2月13日(米国東部時間)、トランプ氏に無罪の評決が下された。

 これは、先月に起こった連邦議会議事堂への乱入事件をめぐり、「反乱を扇動」したとして弾劾訴追されたものだが、激戦の大統領選の余韻が残るなかで起きた乱入事件直後の訴追をめぐる“熱気”はもはやなく、あっさりと「無罪」が決まった。

 共和党議員の間でトランプ氏に責任を追及する機運が徐々に下がっていたことや与党・民主党が、上院での与野党の議席数が拮抗(きっこう)するなかで「トランプ追及」よりも新型コロナウイルスの追加経済対策の法案成立を優先したからだ。

 評決結果について民主・共和両党内でも反応はさまざまだが、米国社会では追加経済対策がいち早く実施されることを望む声が強い。そのことを考えれば、バイデン政権や民主党には、弾劾審議が長引き、議会が動かない事態になることが避けられ、コロナ対策の法案に集中して審議することができる体制となったということでよかったのかもしれない。

 だが、大きな「懸案」が残った。

コロナ追加経済対策の法案
民主党「単独」で可決目指す

 議会民主党は、バイデン大統領が提案した1.9兆ドル相当のコロナ経済対策の早期成立を優先する腹を早くから固めていたようだ。

 3月中旬には失業保険の特別支給の申請が打ち切られるほか、雇用維持を目的とした中小企業向け資金融資(給与保護プログラム=Paycheck Protection Program) も期限を迎える。

 対策の実施が遅れれば、船出したばかりのバイデン政権への求心力に陰りが出ることにもなりかねない。

 トランプ氏を弾劾に追い込み、次の大統領選出馬の道を断つ長期戦略よりは、追加経済対策の法案を早く成立させ新政権を軌道に乗せることを優先しようということのようだ。

 上院での議席数が50対50と共和党と拮抗するなかで、民主党単独でも早期に成立させることができるようにした2021年度(2020年10月~2021年9月)の予算決議案も2月5日に、上下両院で可決し、成立させた。

 追加経済対策の予算を、2022年度から2030年度までの毎年度の予算の大枠を示す予算決議案に22年度分として盛り込み、さらに、そのなかで財政調整措置として扱えるようにするものだ。

 この財政調整措置を利用すれば、上院での審議時間に制限が設けられているため、共和党が議事を引き延ばしなどの妨害ができず、また単純過半数で法案が可決できる。

 いわば「ファスト・トラック」を利用することで、民主党は単独でコロナ対策法案を早期に成立に持ち込もうとしているのだ。

「団結」を掲げた大統領だが
「民主党主導」の政策実行を優先

 1月20日の就任式では、「団結(Unity)」の必要性を何度も強調したバイデン大統領だが、政策立案でも党派を超えて団結し協力し合おうというメッセージからいえば、民主党単独でもコロナ対策法案の成立を図るというのは矛盾する。

 危機打開のためには必要な対応のような感じも受けるが、米国の世論はもともと一方の党が単独で政治を動かすことを嫌う。米国社会の分断の危機が叫ばれているなかで、議会だけでなく社会の溝がさらに深まることにならないのか。

 バイデン大統領も民主党主導で物事を進めることが支持を失う可能性があることも十分に承知のはずだ。議会選挙でのかろうじて勝利にとどまったことが政権運営の余裕を失わせている面があるにしても、就任式で掲げた「超党派での政策推進」とはまったく違う展開になっていることに世論がどう反応するのか、注目される。

最低賃金引き上げ法案は取り下げ
「目玉政策」はどうなる

 議会運営だけでなく、バイデン政権や議会民主党が追加コロナ対策を何より早く成立させることに力点を置いていることで、大統領選の公約だった最低賃金引き上げなどの「目玉政策」がひとまず棚上げされつつあることも見過ごせない。

 予算決議案が上院で採決される際に、決議案から最低賃金の引き上げに関するものが取り下げられた。

 バイデン大統領は早ければ2021年から最低賃金を現行の7.25ドルから段階的に引き上げ、25年には15ドルへ倍増させるという大胆な政策を提案していた。

 しかし、予算決議案の審議を迅速に進める上で、追加コロナ対策の財政調整措置の障害となり得る要素を極力取り除く必要があるということで、最低賃金の引き上げをコロナ対策と一体で成立させることは難しいと判断されたようだ。

 財政調整措置には審議が最優先で行われるメリットがある一方で、歳出・歳入・債務の増減に直結しない要件は対象外とする、という排除ルールがある。

 何でも財政調整措置を使えば実現するというわけではない。今回でいえば、最低賃金引き上げは歳出・歳入・債務の増減に直結しない要件とみなされる可能性が高いため、共和党議員や民主党穏健派が排除ルールを盾に反対の姿勢を強め、肝心のコロナ対策の成立そのものが頓挫するリスクを恐れたようだ。

 実際、最低賃金の引き上げを強く支持してきたサンダース上院予算委員長ですら予算決議案の採決を優先し、自身の主張は取り下げた。

 最低賃金の引き上げは、低賃金労働に頼る中小零細企業には重荷になる。米経済がコロナ禍による落ち込みから十分には回復していない状況では、不適切との判断があったのかもしれない。

 しかし最低賃金の引き上げは、バイデン政権の下でインフラ投資政策と並び、目玉政策の一つだった。

 非常に大幅なもので、仮に実現すれば米国家計の所得環境は平均して大きく底上げされることが強く期待できるものだった。

「15ドル」への引き上げで
1300万人の貧困者救う効果

 米国では、給与所得者1.4億人(農業従事者や自営業者は除く)のうち、時間給労働者は7300万人ほどで、おおよそ6割を占める。

 例えば、新たに時間給労働に応募しようとする場合、州によって若干の規定の違いはあるものの、応募者は希望する時給を記載する所定の欄に「応相談(“open”)」と書いて提出するのが一般的だ。

 ただ、求人側との間で賃金交渉が積極的に行われるというよりは、熟練工や専門性の高い職種など一部を除いては、最低賃金に近いレベルで雇用契約が結ばれることが多いのが実態だ。

 コロナショック前は好況による労働市場のひっ迫で時間給労働者の数が全体として減り続けたが、それでも、最低賃金未満で働く時間給労働者は100万人以上残るなど、生活が苦しい人の数は非常に多い。

 下院に提出された最低賃金引き上げ法案(The Raise the Wage Act of 2021)の付属資料によると、同法の施行によって、現在、最低賃金近傍で働いている時間給労働者1100万人(2020年)だけでなく、2025年までに最低賃金が15ドルへ段階的に引き上げられる過程で、合計3200万人の給与・時間給労働者に対し、所得増加の効果が及ぶと見積もられている。

 該当者の年間所得は平均して3300ドル増えるとされ、これが実現すれば、単純計算で経済全体の雇用者報酬を0.9%押し上げることになる。

 低所得者の消費性向は高所得者に比べ高いことからいえば、消費の押し上げ効果も所得の増加ペースに準ずるものになり、景気対策としても相当な規模になるといえる。

 こうした大胆な対策が提案される背景には、貧困問題が深刻化していることがある。

 センサス局による「貧困」の定義は、世帯人員数ごとに所得水準が定義されている。例えば、18歳以下の子ども2人の世帯人数4人の世帯では年間所得2万6246ドル、子どもの数が3人で世帯人数5人の世帯では3万588ドル、という具合だ(平均世帯人数3.12人〈単身者含む〉)。

 この定義に基づく貧困者は全米では9人に1人と公式に推計されている。こうした危機的事態が大幅な最低賃金の引き上げ論を後押ししているのだ。

 議会予算局も最低賃金引き上げの効果について見積もりを公表しており、最低賃金が15ドルに引き上げられる場合には、1300万人(うち子どもは60万人)を貧困から救う効果があると結論づけている。

 米国の所得格差は大きく広がっており、世帯所得3万ドル未満の世帯数は全体の2割を占める。この多くは貧困層に該当し、最低賃金未満で働く時間給労働者も多い。(図表1)

 5年の間に最低賃金が倍増されれば、所得が平均値未満の世帯に大きく偏った世帯所得分布の山はならされ、米国の平均世帯所得を押し上げることとなるだろう。

コスト増を吸収する余力不十分
公約の議論は年後半以降に

 ただし、こうした最低賃金の引き上げが円滑に行われるためには、雇用者側の所得環境が改善していることも重要な条件だ。

 マクロ経済全体で見た米国の労働分配率は、2014年頃をボトムに緩やかに上昇してきた。

 通常、景気後退の前には売上高の伸び悩みと人件費などのコスト負担の増加で企業利益率(マージン)が圧縮され、企業が外的ショックに脆弱(ぜいじゃく)になっている段階で経営に負荷がかかり景気後退に追い込まれる。

 言い換えると、労働分配率が趨勢的に上昇した後に景気後退で調整局面を迎えるのが通常のパターンだ。

 だが今の局面は、コロナショックでは消費や企業の投資が未曽有の規模で落ち込んだのを数兆ドル規模での財政出動で人為的に需要が押し上げられているため、企業のなかで労働コストの調整がどの程度、進んだのかどうかが判然としない。

 したがって企業に最低賃金引き上げによる労働コストの吸収力が十二分にあるとは言いにくい。

 このことを考えると、最低賃金の引き上げを実現するためにも財政面のサポートは継続して進められる可能性があり、その財源として富裕層への増税と合わせた形で政策を推し進めることが、バイデン政権の「格差是正」政策の目的にかないやすいと考えられる。

 ただ、まずはコロナ追加対策を優先せざるを得ないなかでは、目玉政策の議論は後に置かれ、また国内の「格差是正」のための最低賃金引き上げか、地球温暖化での国際連携を掲げるバイデン外交のカギとなる環境・インフラ投資か、どちらを優先的に具体化するかの議論も今年の後半以降になる可能性が強い。

 バイデン民主党の独自色を出せるのは当面、難しそうだ。

(三井住友銀行〈ニューヨーク駐在〉チーフ・エコノミスト 西岡純子)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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