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魯山人もうなった 大阪名物、アナゴ復活にかける取り組み続々 - 産経ニュース

 かつて大阪湾は日本有数のアナゴの好漁場として知られた。そこで育まれた食文化を未来にもつなげていこうという動きが、地元で盛んになっている。大阪府泉南市では地元漁協が中心となって養殖ブランド「泉南あなご」を売り出し、堺市では受け継いできた加工や目利きの技でおいしいアナゴのPRに余念がない。「伝統食材を途絶えさせてはいけない」。各地の取り組みの今を追った。

(小川恵理子)

「泉南あなご」を食す

 丼からはみ出す身は肉厚で、口に入れると脂が溶け出すほど柔らかい。ウナギの濃厚な味わいともひと味違う上品な風味。ふわふわの食感としっかりとした歯応えが絶妙なバランスになっている。

「泉南あなご」をぜいたくに2尾つかった煮アナゴ丼=泉南市
「泉南あなご」をぜいたくに2尾つかった煮アナゴ丼=泉南市
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 泉南市の海岸沿いにあるレクリエーション施設「泉南りんくう公園」で週末限定で開かれ、地元の海産物が並ぶ「海のマルシェ」の名物は、泉南あなごをぜいたくに2尾使った煮アナゴ丼(1800円)だ。

 焼きや丼、すしなど古くから関西の食文化に欠かせないアナゴ。淀川と大和川が注ぐ大阪湾は、餌となるプランクトンやエビが豊富で、天然物の産地として知られてきた。泉南市は府内でも屈指の漁獲量を誇ったが、農林水産省の調査では、平成16年に140トンあった漁獲量は30年は3トンまで激減した。

 「このままでは伝統の食材がなくなってしまう」

 危機感を募らせた地元の岡田浦漁協が、活路を見いだしたのが養殖だ。

 すでにアナゴの養殖で実績のあった近畿大水産研究所の協力を取り付け、市も加わった連携事業として27年に養殖プロジェクトを開始、今年で6年目を迎えている。昨年度は天然物の3倍近い1キロあたり3300円の販売価格だったが、一定のサイズを、まとまって確保できる養殖物は、飲食店などからも人気が高いという。同漁協の田中良尚副部長も「それだけのものを作っているという自信がある」と満足そうに話す。

1キロ3300円

 プロジェクトは当初、大阪湾で獲れた2000匹の稚魚の養殖から始まったが、昨年度は6倍の1万2千匹を養殖するように。今年度は10トン水槽も1つ追加して、約1万5千匹を育てた。

アナゴの養殖に関わる岡田浦漁協の東裕史部長自ら「泉南あなご」の煮アナゴ丼を販売している=泉南市
アナゴの養殖に関わる岡田浦漁協の東裕史部長自ら「泉南あなご」の煮アナゴ丼を販売している=泉南市
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 同漁協青年部の東裕史部長は「稚魚は傷に弱く、水温も27度以上になると死んでしまうため、当初は致死率約60%だったが、いまは8割近くが生き残る」と説明する。

 漁協では水槽内を26度以下に保つために、海水井戸を掘り、地底深くの海水をポンプで汲み上げ、水槽にかけ流す仕組みを独自に開発した。かけ流し式水槽は、汚れた水を外に出すことができ、良好な生育環境を保つことができる。

 今は、養殖に必要な稚魚を安定的に手に入れることが課題になっている。泉南沖で獲れるアナゴは成魚だけでなく、稚魚も激減している。その理由について府立環境農林水産総合研究所の山中智之研究員も「アナゴの漁獲量の減少は全国的なもの。因果関係は分からない」と首をかしげる。

岡田浦漁協で養殖される「泉南あなご」=泉南市
岡田浦漁協で養殖される「泉南あなご」=泉南市
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 それでもなんとか東さんたちは「岸和田や泉佐野でもいくらかは獲れるので、協力をお願いしたい」と近隣地域も含めた地元産の稚魚にこだわり、泉南あなごブランドとして広めていく意気込みだ。

 ふるさと納税の返礼品としても人気を集めることから市も「泉南に来る目的、観光資源としても活用したい」と算段する。  

アナゴ屋の使命

 一方で、堺市内には、別のアプローチでアナゴの食文化を守り伝える動きがある。

 堺は明治から昭和中期にかけて、出島旧漁港を中心にアナゴのはえ縄漁が盛んに行われていた。美食家・北大路魯山人をして「あなごの美味いのは堺近海が有名だ」といわしめたほどだ。身が柔らかく、きれいにさばくのが難しいアナゴ専門の加工業者が軒を連ね、通りは「穴子屋筋」と呼ばれ活気にあふれていた。しかし今は、加工業者は松井泉(まついいずみ)(同市)をはじめ市内に数軒を残すのみになった。

かつて堺の名物だったアナゴをPRする松井泉の松井利行社長(左)=堺市
かつて堺の名物だったアナゴをPRする松井泉の松井利行社長(左)=堺市
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 「アナゴ屋はしんどくてもうからない商売になっている。このままだと加工技術が失われ、将来的においしいアナゴが食べてもらえなくなる」

 同社の松井利行社長はこう危機を訴え、約10年前から「アナゴの街・堺」の復活を目指したPR活動「堺あなごプロジェクト」を始めた。今秋には市内で路面電車を運行する阪堺電気軌道(阪堺電車、大阪市住吉区)とコラボし、週末限定でアナゴすしの駅弁(1400円)を販売。最終日には用意した300個が1時間半で売り切れる人気ぶりを見せた。

 高度成長期の湾岸開発により堺沖の漁獲量も激減、ここ数年はほとんど獲れなくなっているため、松井泉が取り扱うアナゴは今は韓国産が中心になっている。「おいしいものを作り出すのがアナゴ屋の使命。こだわるのはアナゴそのものであって、産地じゃない」と松井さん。「魯山人の時代とは海も川も環境が違う。受け継いだ加工技術や目利きがあるから、産地にこだわらなくても誰もがおいしいと言ってくれる味に近づけることができる」と矜持(きょうじ)を語る。

 大阪に伝わるアナゴの食文化は、しっかり息づいている。

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