「もうダメだ」諦めからの復活、一命をとり取り留めた地域猫
そう言って、通りすがりの人が事務所に駆け込んできたという。その日は雨。「低体温になっている可能性があるので、温めるためにドライヤーを用意して事務所で待機していました」と溝上氏は当時を振り返る。しかし、現場に赴いたメンバーから送られてきた猫の写真を見た溝上氏は、「もうダメだ」と半分諦めに近い気持ちだったそうだ。ブログに掲載された写真を見ると、確かに死んでいるようにしか見えないが、かすかに息がある。事務所へ搬送して必死にドライヤーで温めるも、体温が低すぎて体温計でも測れない状態。痙攣が起きたためにタオルを口にくわえさせ、なんとか命の危険を乗り越えた。
意識が戻ると、猫はヨロヨロしながらも美味しそうに“ちゅ〜る”を舐めた。この猫は井頭公園近くで行き倒れていたことから「井頭(いがしら)12:50」、通称いがちゃんと命名された。
一命を取り留めたいがちゃんだが、さらに過酷な運命が待っていた。当時を思い出したのか、少し黙り込んだ溝上氏は悲しそうに語る。「口の中に腫瘍があることがわかったんです。扁平上皮癌というもので、『もう治らない』と獣医師から言われて。あとは看取ることしかできませんでした」。
いがちゃんの未来が判明してからは、「みんなにいがちゃんを覚えてもらうために」と、いがちゃんの色々な表情をブログに載せた。その名も、『いがちゃんチャレンジチェック』。
「看取ることしかできない」、ちゅ〜る好きだったいがちゃんの緩和ケア
<それにしても、もっとゆっくりしていけば良かったのに…。
いが「そう?でも、猫神様に呼ばれてたから」
猫神様も、カッコイイいがちゃんに早く会いたかったのかも…。
「やっぱり? うふふ、いがちゃんだもの」
ああ! いがちゃん、そういえば、よくちゅ〜るを手ですぐって食べていたよね。
「うん。大好き」
メンバーさんからも、いがちゃんを応援してくれた優しい人たちからも、たくさんご飯やオヤツをいただいたよ。
「エヘへ、ありがとうね」>
(ねこけんブログより)
「いがちゃんは本当にちゅ〜るが大好きでした。もう治らないとわかってからは、栄養よりもいがちゃんが食べたいものをあげて、緩和ケアだけを考えたんです。最後は穏やかに亡くなりました」と溝上氏。奇しくも、『ねこけん』で長らく保護していた猫・彦爺と同じタイミングで旅立った。彦爺はもともと、13年間も真っ暗な押し入れの中で飼われていた猫で、明るいところでは涙が止まらなかったのだという。『ねこけん』設立初期に保護し、20歳を超えて生き、大往生を果たした。
「猫ちゃんが亡くなるとき、バタバタと相次いで逝ってしまうことがあるんです。季節的なものもあるんでしょうね」。ブログには、一足先に虹の橋のたもとでいがちゃんを待つ、彦爺の姿がイラストで描かれていた。
いがちゃんを保護して、わずか1ヵ月後のことだった。
(文:今 泉)
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