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もう一つの緊急事態宣言 あれから10年【コメントライナー】 - 時事通信ニュース

2021年02月07日09時00分

東京電力福島第1原子力発電所事故で福島県富岡町に出されていた避難指示が2020年3月に一部解除された。引き続き帰還困難区域とされるエリアとの境には新たにバリケードが設置された=2020年3月10日【時事通信社】

東京電力福島第1原子力発電所事故で福島県富岡町に出されていた避難指示が2020年3月に一部解除された。引き続き帰還困難区域とされるエリアとの境には新たにバリケードが設置された=2020年3月10日【時事通信社】

  • 東日本大震災による津波で破壊された南三陸町の防災対策庁舎=2011年3月15日、宮城県南三陸町【時事通信社】

 ◆防災システム研究所所長・山村 武彦◆

 昨年12月、東日本大震災の被災地を回ってきた。岩手県陸前高田市はかつて、「夢の懸け橋」と呼ばれる巨大コンベヤーが土砂を運び、重機が走り回り、土ぼこりに包まれていた。約1500億円を投じた巨大土木工事は5年前に完工。今は潮の香の漂う静かで穏やかなまちになっていた。

 最大12.3メートルかさ上げされた中心市街地には、商業施設「アバッセたかた」や市民文化会館が開業。飲食店など約100の店舗や事業所が営業し、復興は着実に進んでいた。

 一方、かさ上げ地に自宅を再建したTさん(75)宅の周辺は、雑草に覆われた空き地が目立つ。その合間に約50戸の住宅が点在。まだ自治会はなく、近くに友人もいない。「市外に避難した親友はもう戻ってこないだろう」と言う。

 以前の隣人は高台や復興住宅に移り、今は疎遠だとか。安全なまちはできたが、あのぬくもりのあった街並みはなくなり、向こう三軒両隣の人たちにはもう会えなくなったと嘆く。

 ◆被災地全体へのエールに

 「住まいは高台に」―。甚大な津波被害を教訓に、宮城県南三陸町は住宅団地や災害公営住宅を高台に造った。以前の中心市街地は復興祈念公園、市場、海産物工場など「なりわいの場所」に指定された。

 復興計画が進む中、震災前1万7666人だった町の人口は、昨年12月に1万2426人(29.7%減)に。急激な人口減少は地域のポテンシャルを弱める。農漁業や観光業などの維持に支障を来すだけでなく、企業進出や人の移住をも阻害する。

 過疎化、働く場が少ないという地域課題が震災でさらに増幅され、仕事を求める若者は町を出ていくしかない。被災地は今も、この悪循環から抜け出せないでいる。そして、落ち込んだ観光産業などに、コロナ禍がさらに追い打ちをかけている。

 そこで提案したいのは、震災後にスイスの「ダボス会議」で紹介された「南三陸町防災対策庁舎」の世界遺産登録だ。物言わぬ語り部として、悲しくも感動的な震災モニュメントとして登録できれば、被災地全体への観光客誘致のけん引車となり、エールとなるのではないか。

 ◆胸に迫る悲しみ

 福島県富岡町は震災直後、福島第1原発事故で全町避難した町だ。除染が進み、帰還困難区域の一部と居住制限区域などが解除され、鉄道・国道が開通し、病院や小中学校も再開した。震災前は人口1万5800人だったが、昨年12月末で1万2374人。しかし、これは住民登録数であって居住者数ではなかった。

 現在の居住者は1568人で、震災前の10分の1にすぎない。「住宅街の除染は進んだが、山林などが除染されていない」「廃炉作業中に何があるか、まだ分からない」などと、町に戻らない避難者の多くが放射能の不安と、安全性への不信感を募らせていた。

 2011年3月11日に発令された原子力緊急事態宣言はいまだに解除されず、廃炉作業はあと30年かかるという。人影のないJR富岡駅前に立った時、「緊急事態宣言が解除されない限り、この町に真の復興はない」と言った住民の悲しみが胸に迫ってきた。

 (時事通信社「コメントライナー」2021年1月27日号より)

 【筆者紹介】

 山村 武彦(やまむら・たけひこ) 1943年生まれ、東京都出身。64年の新潟地震でのボランティア活動を契機に「防災システム研究所」を設立。以来50年以上にわたり、世界中で発生する災害の現地調査を実施。報道番組での解説や日本各地での講演、執筆活動などを通じ、防災意識の啓発に取り組む。多くの企業や自治体の防災アドバイザーも歴任。実践的防災・危機管理の第一人者。著書は「災害に強いまちづくりは互近助の力~隣人と仲良くする勇気~」(ぎょうせい)など多数。

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