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今こそテイクアウトを楽しもう。皮の香ばしさがごちそう、 ジューシー鶏つくね - 朝日新聞社

連載「パリの外国ごはん」では三つのシリーズを順番に、2週に1回配信しています。
《パリの外国ごはん》は、フードライター・川村明子さんと料理家・室田万央里さんが、暮らしながらパリを旅する外国料理レストラン探訪記。
《パリの外国ごはん そのあとで。》では、室田さんが店の一皿から受けたインスピレーションをもとに、オリジナル料理を考案。レシピをご紹介します。

今週はロックダウンが続く現地から、川村さんが心に残るレストランを再訪する《パリの外国ごはん ふたたび。》をお届けします。お店での食事はかなわない今、テイクアウトで「ふたたび」です。

フランスでは、10月30日より施行されていた外出規制が12月15日、新たな段階へと進んだ。

当初は、1日の新規感染者が5千人未満になれば、外出禁止令が解除され、それをもって1カ月半にわたって義務とされた、外出時の特例外出許可書の携行も必要なくなる、とされていた。

残念なことに感染者は見込み通りには減少しなかった。ただ、外出規制は緩和され、夜間のみ(20時〜翌6時)外出禁止令が続行。映画館、劇場、美術館、スポーツ施設などは引き続き、早くとも1月7日までの閉鎖が発表された。カフェやレストランは、1月20日をめどに再開の可能性が検討される。

飲食店は現在、店内に客を入れないテイクアウトの販売は許可されている。春の経験を踏まえ、今回は即座にテイクアウトメニューを展開したレストランも少なくない。大抵の店は、入り口に机を置き、そこで注文を取り、会計と受け渡しをする。あらかじめオンラインで注文し、予約の時間に店にピックアップに行くシステム、“クリック&コレクト”はすっかり定着した。

「シンプルなチャーハンが食べたい」

11月の下旬、私はあるメニューの試作で、牛塊肉でスープを取り続けていた。部位ごとの味の違いを知りたくて、500~800gの塊肉を茹(ゆ)でる。茹でた牛肉はスープの具としても少しは使うものの、余る。それで2週間ちょっと、茹でた牛肉を何かしらにアレンジして食べていた。

ある日、紫タマネギと一緒にチャーハンを作った。余り物で作ったにしては、えらく本格的な味に仕上がった。とてもおいしかったのだけれど、それを食べた時になぜか、「これじゃなくて、ハムとグリーンピースのシンプルなチャーハンが食べたい」と思った。

今こそテイクアウトを楽しもう。皮の香ばしさがごちそう、 ジューシー鶏つくね

1軒、テイクアウト専門の店が頭に浮かんだ。小さな間口が印象的なその店の前を、近くに行くことがあれば、存在確認をするようにいつも通っていた。10月までは変わらずにあった。あの店は、この状況下でも変わらずに営業しているに違いない。ちょうど近くに別の用事もあったから、合わせて、行くことにした。

目当ての店NGOUN HENG(グウン・ヘン)は、やはり営業していた。いつもショーケースの向こうにいるこの店のお母さんが、この日も定位置に立っていた。ショーケースは道と同じ高さに置かれているのだが、店の内側は一段低い所にある。それでか、ショーケースはあまり高さのないもので、それがこの店を一層コンパクトに見せている。

ランチタイムのピーク時間をとうに過ぎて着いたら、だいぶ品薄だった。「NGOUN HENGに行くならば……」と楽しみにしていた鶏のつくねの姿を確認したくて少しかがむと、下の段に、まだあった。前に来たとき、その日も1人で販売を担っていた彼女に「つくねがとてもおいしかった」と伝えたら、お嬢さんも毎朝「お弁当に入れてくれた?」と聞くのだ、と話してくれた。香ばしくて、実においしいのだ。

今こそテイクアウトを楽しもう。皮の香ばしさがごちそう、 ジューシー鶏つくね

後ろに人が並び始めたので、考え込むことなく、鶏のつくね(フランス語だと、鶏団子の串焼き、という言い方をする)と、その隣にあった牛肉のタイバジル炒め、チャーハン、それにネム(ベトナム風揚げ春巻き)を買うことにした。

「温めます?」と聞かれたので、「いえ、結構です。あ、でも、電子レンジはないのだけれど……」と言いよどむと、「オーブンはありますか?」と再び聞かれた。「あります」「じゃあ、つくねはオーブンで温めて。タレは、濃くなっちゃうから最後にかけてくださいね」

頼んでから、ネムと同じお皿に、ポツンと一つだけ残っていた肉まんが気になり、「これも自家製ですか?」と聞くと、「そうですよ。中は、豚肉。全部作ってますよ」と言うので惹(ひ)かれて、追加でお願いした。

今こそテイクアウトを楽しもう。皮の香ばしさがごちそう、 ジューシー鶏つくね

家に持ち帰り、オーブンでつくねとネムを1本ずつ温めた。チャーハンと牛肉の炒め物はフライパンで。一皿に盛り付けてから、野菜がないことに気づいた。でも、おなかが空いて、サラダを作るのさえもどかしい。幸い、みかんとキウイがある。野菜不足は果物で補うことにして、冷めないうちに食べ始めた。

まず、つくね。そうそう、これ! 手で力強くこねたことが察せられる弾力。オーブンで焼き直したのは正解だったようだ。私は焼き鳥の中でも皮が好きで、食べに行けば必ずオーダーするのだけれど、この店のつくねには、皮の香ばしさが潜んでいた。オーブンで上からも下からも同時に熱が入ったことで、香ばしさが増し、前に食べた時よりもジューシーだと感じた。下味がしっかりついており、私にはそれで十分で、タレを付け直さないほうが好みだった。

今こそテイクアウトを楽しもう。皮の香ばしさがごちそう、 ジューシー鶏つくね

ネムは、ものすごく細かく刻まれた春雨と鶏ひき肉に、にんじんとネギがちらほらと見える。つなぎに何を加えているのかわからないけれど、これもぎゅっと身がしまっていて、コショウがパンチを効かせ、やはり私は、甘酢ダレをつけずにそのまま食べる方が好みだ。

味付けも何も想像せずに買った牛肉炒めは、ベースはサテソースだろうか、全体的にピーナツの味が絡んでいた。これは食欲を刺激するなぁ。ニンジンと、赤や緑のピーマンは、しっかり歯ごたえのある火の通り加減で、こってりした味の中にみずみずしさを放つ。久しぶりの、自分で作るのではないアジアの味に、すっかりうれしくなった。

最後に、お待ちかねのチャーハンを。そう、私は好きなものを最後にとっておく。油でコーティングされたようなお米は、こういったアジアの総菜店では珍しく、硬めの炊き加減だった。もしかしたら、レンジではなくフライパンで温めなおしたのがよかったのかもしれない。粒が立っていておいしい。ハムで作るチャーハンの魅力ってあるよなぁと味わい、満たされた。

翌日蒸しなおして、おやつに肉まんを食べた。しっかりこねられた肉だねの肉まんだった。今度は、いくつかまとめて買おう。

NGOUN HENG(グウン・ヘン)

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    《パリの外国ごはん》 

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  • PROFILE

    川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食を軸に活動を開始。パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けたほか、著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)。
    現在は、雑誌での連載をはじめnoteやPodcast「今日のおいしい」でも、パリから食や暮らしにまつわるストーリーを発信している。

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