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僕たちはもう、強くない 「革命」に口閉ざすエジプトの若者 <まぼろしの春② アラブ民主化運動から10年> - 東京新聞

 民主化運動「アラブの春」がチュニジアからエジプトに飛び火し、2011年2月にムバラク独裁政権が倒れた革命から10年が近づく。「その日」に向け、現政府の息のかかった既存メディアは革命を否定する報道を繰り返していた。

 先月末。革命を先導した主要民主化団体の元代表アハマド・メーヘル(40)がテレビを付けると、トーク番組の司会者がからかうように自分の名前を挙げていた。混乱を生んだ「戦犯」のような扱いに、乾いた笑いが込み上げてきた。「今さら何だって言うんだ。もう活動も抵抗もしてないだろう」。「代表」の肩書はもう過去のものだ。

カイロ郊外で11月下旬、民主化運動について話すアハマド・メーヘルさん

カイロ郊外で11月下旬、民主化運動について話すアハマド・メーヘルさん

 当時、ムバラク退陣を求めるデモは100万人規模に膨らみ、開始から18日で約30年間続いた政権は崩壊した。メーヘルはカイロのタハリール広場で先頭に立ち、腐敗政治の撤廃や公平な社会の実現を訴えていた。

 エジプトでは1952年の軍事クーデター以降、軍が政治を支配してきた。2011年の革命後は、歴代政権に弾圧されていたイスラム主義組織「ムスリム同胞団」が政権を握り、初の自由選挙で同胞団のモルシ氏が大統領に就任。しかし、13年にまたクーデターが起き、軍事政権に逆戻りした。現在は元国防相のシシ大統領が国を統べる。

 軍事政権が息を吹き返して以降、エジプトでは「革命の反動」で言論の自由が狭まっている。既存メディアは政権の影響下に置かれ、政府批判は厳禁。ソーシャルメディアの検閲や監視が進み、若い活動家やジャーナリストが数日おきに拘束されている。

 メーヘルも無許可でデモをした罪などで13年から3年間服役した。政治犯として独房で過ごし、面会に来た幼い子どもたちには「工場で住み込みの仕事をしている」とうそをついた。出所後は3年間、毎晩警察署の留置場で過ごす決まりだった。完全に自由になったのは昨年のことだ。

 革命前は逮捕されても数週間で釈放されたが、今は一度捕まれば2、3年は出られない。長年民主化運動に携わる活動家ジョージ・イシャック(80)は「革命を通じて若い世代によい未来を見せることができなかった。若者は逮捕を恐れて政治の話をせず、『革命』という考え自体が危険だと思うようになった」と嘆く。

 メーヘルは今、カイロ郊外のアパートで家族とひっそりと暮らす。「政党の自由や新しい法律の制定、社会正義の実現…。当時は、きっとかなうと思っていた」。遠くを見つめるように振り返る。

 10年後の今、メーヘルが願うのは「仲間が刑務所から出てくること」だ。「体制を批判する勢力があることで民主主義は発展していく。政権批判は決してテロリズムではない」と話すが、あのときのように再び立ち上がる気力はない。「僕たちはもう、昔ほど強くない」(敬称略、カイロで、蜘手美鶴、写真も)

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